2年目にして先輩が異動したおかげで引継客を250件も貰えるという大変ラッキーな状況だった。
他の同期はまだ地道に活動して買う気もない冷やかし客を必死に後追いしている。
僕なんか引継客が250件もいるおかげでこんなにがっぽり。。。と思ったがまだ引継客は一台も買ってくれていない。
点検なんかはちょこちょこやってくれたがそれも点検パックが残っているから。
実は引継は難しい?
最初の挨拶の電話をしている時によくあったのが、先輩スタッフの異動を告げると『あ、じゃあちょっとこれからどこに点検出すか考えますわ』みたいなことをちょくちょく言われた。
まさかほんの数秒の電話でいきなり僕のことが嫌いになったわけではあるまい。
推測すると『新車から世話になった担当営業だったからしょうがなく付き合ってたけどいなくなるならもうディーラーと付き合うこともない、もっと安いところに点検だそう。』
ということである。
なのでこうなってしまうとせっかくの生きた客を失ってしまう。
だから本当は先輩スタッフが引継の電話を全てかけるor一緒に訪問して挨拶回りするべきだったのだが、突如決まったことなのでそんな時間はなかった。
電話でお客さんに異動を伝えると『え!?急だね。この前も何も言ってなかったのに!』みたいな感じでみんな驚いた。
『このままお客さんが離れていってはまずい。。とりあえず訪問しよう』
やはり営業の原点は足で稼いで顔を覚えてもらうことにある。
比較的離れそうな感じの生きた客から全件訪問に回った。
するとやはり電話だけでは分からない情報がたくさん得られた。
なんせ僕も先輩が突如いなくなったものだからお客さんの情報は手元にある名前と住所と車種だけの顧客リストしかないのだ。
訪問して少しでも話をした方が圧倒的に情報量が多い。
しかもいいお客さんばかりなので正直やっていて楽である。
と言うより嫌なお客さんは自然と切っていったんだろう。
異動した先輩スタッフはベテランでこそあったが売れっ子ではなかった。
売れっ子営業マンは客を選ばない。
だからいろんな客がいる。
この先輩のお客さんはいい人しかいない。
つまり客を選んで残ったいい客だけということだ。
なんて生ぬるい最高な環境なんだろうと僕は今一度喜んだ。
挨拶回りの後、すぐに効果が現れ始める。
やはり営業は泥臭く足で稼ぐ。
それを実感する出来事が起こった。
挨拶まわりをしてから数日後、初めて引継客から電話で僕の名前が出た。
ほとんどの引継客はまず先輩スタッフの名前が出て、異動したことを告げそれから僕に電話が取り次がれる感じだ。
しかしこの日は僕の名前が最初に出た。挨拶回りのおかげだ。
さらに驚いたのはこの後。
なんと車を買い替えたいので商談をしたいという商談のアポだったのだ。
こんなに嬉しいことが今まであっただろうか。
いいお客さんすぎる。
そして週末の日曜日、来店してとんとん拍子で買ってくれた。
『僕は少しラッキーすぎないか?』
そう思ってちょっと怖くなるくらいにラッキーだった。
いくら挨拶回りが大事ったってそんなことはみんなやっている。
ここまで実力が伴わずに売れてしまうのはそれこそまるで一発屋芸人と同じような状態によく似ていると思う。
しかし先輩たちは皆僕をもてはやした。
謙遜しても『運も実力のうちだぞ!』と言ってくれた。
確かに運も実力のうちか。。
この運、いつまで続くかわからないけどとりあえず行けるところまで運だけで行ってみても面白いかもしれない。
僕はとにかく調子に乗った。
とにかく引継客にアピール!あれ?効かないぞ?
しかしそのラッキーはすぐに終わった。
引継客に代替えのアタックをしても全然効かない。
効かないどころか『以前の〇〇さんはそんなにしつこくなかったわよ』とか『〇〇さんはそんなんじゃなかった』みたいな感じで先輩スタッフと比較されることが多かった。
確かにそりゃ違うんだからしょうがない。
しかし僕も先輩が今までどうやっていたか全然分かりっこない。
こっちだってもっと先輩から色々情報聞けてればお客さんに合わせたやり方ができたと思うけどそんなことお客さんに言ったところでただの言い訳である。
あれ?もしかして引継ってやりづらい?
見えない敵は先輩かよ!と思うとなんかめんどくさくなってきた。
超えてやろうとかそういう気持ちはあまり起きなかった。
なぜなら僕はその先輩をまるで尊敬していなかったからだろう。
俺は俺のやり方でやる!そう思うようにした。