晴れて大学生になった僕は、今度こそは遊び呆けてはいけないと思い、まずは友達を作ることをやめた。
友達ができてしまうとまた遊び呆けてしまう。
ただ幸いなことに編入生はもう1、2年次で十分に出来上がった大学生コミュニティの輪には到底入れるものではなかったので作りたくてもできなかった。
友達がいないとやることもないので人が変わったように真面目に勉強した。
一番前で講義を聞いて、ノートをとり、人生で初めて授業中におしゃべりしてるやつをうるさいと感じた。
自分もあーだったんだなーと思うと申し訳なくもなった。
真面目に講義を受けたおかげで成績は今までにないくらいに良かった。
すべてはカーディーラー営業になる為に頑張った。
就活、解禁。
そして我々2012年度卒は大学3年生の10月から就活が解禁となった。
今はもう少し遅いんだよね。
さすがに10月から就活といっても説明会くらいしかなかったし、肝心のディーラーの説明会はまだ先だった。
年が明け、1月。
会社説明会の開催も増えてきて、ディーラーはもちろん、その他の企業も沢山会社説明会に参加した。
単位も順調にとっていたのでゆとりを持って就活に時間を充てられた。
そしてやっと1次選考ってぐらいのタイミングの時だった。
東日本大震災
僕たち2012年卒は就活の真っ只中、東日本大震災が起こった。
僕はその日も会社説明会の真っ最中だった。
首都圏にあるビルの7階で14時から説明会がスタートして間もなく15時になる前に突然下からズンズンと突き上げるような振動を感じて机もテーブルもはじからはじまで動いた。
今まで体験したことない揺れ。
初対面の奴らと共有する不安と恐怖。
その後も激しい揺れが続いて、さすがに今日は中止でもう終わりかなと思っていたら人事の人が『では、グループディスカッションを始めます』とかズレたメガネを直しながら言い始めた。
いや、女の子みんな泣いてますけど、それどころじゃないと思うけど。
社会人になるってこういうことなのかとちょっと恐ろしくなった。
その後も余震が続いて全然説明は入ってこなかった。
でも定刻の17時まできっちりやりきった。
出るときにドアがゆがんで開かなかった。
エレベーターも当然止まっているので非常階段で降りた。
僕はたまたまバイクで近くまで来てたから帰れたが、他の会社説明会参加者は会社に泊まったらしい。
道路に出ると混乱して3車線が4車線になっている。
人生で初めて感じた言い知れぬ恐怖だった。
翌日、え?会社説明会あるの?
その後もテレビではずーっと災害特番が流れ続け、就活どころではなかった。
翌日の3月12日にも他の企業の会社説明会があり、一応やるのか電話で聞いてみたところ『はい、予定通りやります』とのこと。
いや、電車止まってるんでいけないんですけどって感じですよね。
まあ当然説明会なんで行かなかったですが。
そんな混乱の中で一つだけ既に1次選考に進んでいる第一希望のカーディーラーがあった。
3月中に予定していた選考は4月へと延期になった。
祈られ続ける日々
4月に入り、割と就活の状況は普通に戻っていた。
突然採用人数を減らしたり、やっぱり今年は新卒取らないとかいろいろあったけど、僕が受けていたところはそういうのは一個もなかった。
しかしディーラー以外のところは滑り止め程度の気持ちで受けていたが全部落ちた。
なんなら履歴書で落ちた。
やっぱ本気じゃないのはバレるんだね。
就活では落ちることを『祈られる』とも言う。
相手企業が手紙で『ご健勝をお祈り申し上げます』というところからきているそうだ。
祈られまくった。
そんなところに祈りのエネルギーを使わないでくれってくらい祈られた。
でもなんだろう。
試験とかで落ちるのは勉強不足だからってのはわかるけど、手応えある面接で落ちるとなかなか凹むんだよね。
自分を否定されている気分になるというか、『あんたいらないよ』みたいな。
んで周りが優秀に見えてくるし。
ちょっと祈られまくって自信なくし始めていた。
でもなぜか第一希望のカーディーラーだけは本気が伝わるのか順調で、部長面接も終わり、残すは役員面接だけだった。
GW最終日に鳴った電話
第一希望ディーラーの役員面接も終えてゴールデンウィークに突入した。
5連休くらいだっただろうか。
結果はGW中に連絡するとのこと。
何て意地悪なんだ。
こんなに複雑な気持ちで迎える連休は人生で初めてだった。
面接の手応えは正直なところお覚えていない。
それなりにできた気もするけどずっと祈られまくって自信をなくしていたというのもあって、何が手応えかもわからなくなっていた。
でもやるだけのことはやった。
これで落ちたらまた他のディーラーの2次募集に応募するしかない。
ただ、5連休もあると悪い想像ばかりしてしまう。
『普通なら面接やって合格ならすぐ電話するよな、やっぱ落ちたか。』
とかいろんなことを考えてGWも残すところあと1日となった。
あぁ、もうダメだ。
そう思い、その日は飲み会があったのでパーっと飲むしかねーと思って最初の乾杯ビールに口をつけた直後、携帯が鳴った。
なんと第一希望ディーラーの人事室からである。
は?これから楽しく飲もうって時に追い打ちかけてくれてんじゃねーよ手紙で祈れや!とか思って電話に出る。
『あ〇〇株式会社、人事の〇〇ですー。この間はお疲れ様ー。』
『あ、お疲れ様です。。。。』
『採用の件だけど・・・・内定ということでこれから宜しくお願いします!』
『ファっ!!!???内定!?!?マジっすか?マジっすか??』
『マジですよ笑ごめんね遅くなってー』
『い、い、い、いえ、とんでもないです。さすがに落ちたと思ってたからちょっとめっちゃ嬉しいですありがとうございます』
『では今後の手続きとかいろいろあるからとりあえず書類送っておきます。ではー。』
よっっっしゃあああああああああ!!!!!!!
本当に雄叫びが出た。
居酒屋のトイレで。
そのあとは速攻で親に電話で連絡した。
とても喜んでいた。
とてもとても喜んでいた。
僕もめちゃくちゃ嬉しくてその日の酒はとんでもなくうまかった。
卒業までとんでもなくダラダラ過ごす
第一希望に内定をもらったので当然就活はここで終了。
5月に内定が出ているのは割と早い方だった。
それからは単位も余裕で取れたのであとはバイトしまくって遊びまくるという生活の繰り返し。
この期間は最高に楽しくて最高に無敵だった。
就職氷河期と言われ、同学年の人間はまだまだ就活に苦しんでいるというのに自分は一足先に定年退職でも迎えたような気分だった。
そしてこんなにバイトでも活躍しているんだから社会なんて余裕だぜ〜、とナメくさっていた。
そんな楽しい期間は10ヶ月近くもあったはずなのに一瞬で終わっていた。
もう大学も卒業、あぁ、社会人楽しみだな〜。