僕は新卒でカーディーラーに入社して、店舗配属になった初日の最初の仕事が『辞めた先輩の机の片付け』だった。
僕の机は辞めた先輩のお下がり。それも中身が全部入ったまま。
希望に満ち溢れている入社ホヤホヤの僕は片付けながら『なんでこの人はやめたんだろう、勿体無い』と考えながら作業をしていた。
そして僕が入社して半年が経った頃、初めて辞めた先輩の話を店長から詳しく聞いた。
辞めた先輩は売れっ子営業マンだった
先輩は入社して3年くらいのまだまだ若手。
明るくムードメーカーのような存在で、誰から見ても『営業向きだね』なんて言われる感じだったらしい。
そんな先輩の退職理由は『うつ病』。
世間ではうつ病で退職なんてことは日常茶飯事でよくあることだと思ってた。
しかし自分の職場でそれがあったということに衝撃を受けた。
車が売れないから?
そうではないらしい。
むしろ先輩は結構売っていたそうだ。
会社もそうなった理由はわからないが、真面目で責任感が強い方だったので期待とかプレッシャーに勝手に負けてしまったんではないかと店長は言っていた。
僕は店長に『お前もあいつみたいになるなよ!』と言われた。
入社半年だが僕も割と売れっ子だったのでその”プレッシャー”というのも少しだけ勝手に感じるようになっていた。
だから自分でも少しだけ先輩みたいにならないか不安だった。
でも店長には『僕はなりませんよ!余裕です!』とその”営業向き”な性格がその場を取り繕った。
店長はこの時、どういう意味で『お前もあいつみたいになるなよ!』と言ったのかが今でもわからない。
机を片付けながら感じた先輩の真面目さ
先輩の机を片付ける時に、いらないものはシュレッダーしていたが使えるものはもらっておこうと一応選別しながら片付けていた。
その結果、半分くらいは”非常に使えるもの”だった。
それは先輩が参考書に書き入れた手書きの注意点や勉強ノート、セールストークをまとめたノート。
他にも契約書類のハンコを押すところはどことか新人にとってはこの上なく欲しい情報の詰まった”生きた参考書”だった。
どれも細かいポイントまで、それもかなり綺麗にまとめてある。
これにはかなり助けられた。
わからないことがあればすぐにノートを開いて調べられたし、大概のことはノートを開けば解決した。
次に片付けながら驚いたのが『競合他社の車のカタログ』だった。
机の一番下の引き出しはだいたい一番大きいと思うが、そこには他メーカー車のカタログがびっしり詰まっていた。
自分の足で回って集めたのだろうか。
みんなやっていることなのかと思って他の先輩に聞いてみたが、持っていても1〜2冊だそうだ。
しかもその1〜2冊も競合になって初めて調べたものだそう。
しかし先輩のこのカタログの量は違う。
商談で急な競合トークになっても全て対応できる為の明らかな事前勉強用である。
先輩はとても真面目な人だったようだ。
しかしうつ病になって退職してしまった。
入社して半年が経ち、その先輩の退職理由がうつ病と聞き、最初に机を片付けていた時に思った『勿体無い』とは違う意味で『もったいない』と思った。